読書感想:尾崎行雄『民権闘争七十年-咢堂回想録』(講談社現代文庫、2016)

 

さて、初めての感想記事は『民権闘争七十年-咢堂回想録』の読書感想を書いていきたい。
 本書は、代議士生活を63年、連続当選25回という記録を打ち出し、「憲政の神様」と呼ばれた尾崎行雄の回想録である。彼は1890年の第1回衆議院議員選挙から、連続当選しており、戦前から戦後にかけて議員であり続けた。

 尾崎については、教科書で登場するのは大正政変時の議会演説が特に有名であろう。尾崎は、宮中府中の別を犯した桂太郎首相に対して、天皇の玉座の裏から、天皇の言葉を弾丸として利用して政敵を葬ろうとしていると批判し、言論で第三次桂内閣を倒閣に追い込んだ。

 

 さて、尾崎はこの回想録を1952年という戦後間もないことに出版している。明治憲法によって成立していた国家を生き抜き、新たな民主国家として生まれ変わった日本を目の当たりにした尾崎は、各時代を回想する中で、日本人の政治意識の問題点を鋭く指摘している。特に印象的だったのは、尾崎の共和党演説が一部分のみ捉えられて、天皇制を否定するかの如く報じられた時を振り返り、演説を行った当初は参加者は賛同していたにも関わらず、上記のような報道がなされると手のひらを返したかのように、誰も弁護しなかったと回想している部分であった。以上の事例は、後の太平洋戦争に突入した際にも顕れていたという。 「長いものには巻かれろ」を容認するような日本人の傾向は、例え国家体制が民主的になろうとも、正しく実行できないと指摘している。

 

本書は、尾崎行雄という政治家が、明治から昭和の自身の活動を振り返ったもので、戦前の政治をリアルに知ることができる一冊である。もちろん、回想録という過去の出来事を後年になって記述したものなので、尾崎にとって不利益な事実は十分に説明されていない点も多いが、政友会や民政党といった既成政党から距離を取り、独自の信念で政治活動を展開していた点は興味深く読むことができるであろう。また、所々で戦前・戦後を通じた日本人の政治意識に関する問題点を突いており、現代の政治を考える上でも有用な書になりうると思う。

 

既に、講談社学術文庫になって、読みやすい形になっているので、一読を勧めたい。